八郎だ(Twitter:@eightblog_hachi)
毎日の人も、久々の人も、初めての人も
ここへの訪問に深謝だ。
この物語は注文住宅について何の知識も無い夫婦が
思い立って注文住宅を建てようとしたら
どうなったのかを描いた「フィクション」だ。
良かったら立ち寄っていただきたい。
前回までのあらすじ。
嫁の幼少時代の話。
広い敷地の長屋を改築した戸建てに住んでいたが
父が会社に損害を与えたという理由で
その損害の返済に持ち家を売る事に
なってしまったという嫁一家。
心機一転。2DKのアパートで
再起を図ることになった嫁一家だったが。。。
楽しかったのは最初の夜だけだったようだ。
それでは、今日も俺の新しい家の話を、始めるとしよう。
変わり果てる生活
引っ越しして2日目。
父は朝食もそこそこにあわただしく出ていった。
私たち姉弟は「転校の手続きが終わっていないから」
との理由で、1日家にいる事になった。
母は転校の手続きの他にもやる事があると言って
朝9時に家を出ていったあと
結局18時過ぎまで帰ってこなかった。
狭い部屋に姉弟3人が残された。
外に出ようかと思った
今日は平日。普通なら学校に行かないといけない日。
公園で遊んでいる所を誰かに見られたら注意されるのも面倒だ。
それに何せ新しい土地である。
公園や遊び場がどこにあるのかもわかっていない。
今日外に出ると、色々面倒な事になりそうだ。
テレビも無い、当然おもちゃも無い部屋で
ぼんやり前の長屋の家の事を思い出していた。
家族以外にも犬や鶏やジュウシマツがいて
とにかく退屈することは無かった。
ひとりだとしても動物と触れ合っていれば
時間はあっという間に過ぎた。
子ども部屋にはたくさんのおもちゃがあった。
弟たちも思い思いのおもちゃで遊んでいたが。。。
次男「レールに沢山の電車を走らせたいなあ。。。」
長男「前の家に帰りたいよお。。。」
嫁「。。。」
早くも弟たちは「ホームシック」状態。
私が自分の想いを口に出したら
弟たちはきっと泣いてしまう。。。
私は自分の想いは封印することにした。
その日の夜。
母は帰ってきて慌ただしくご飯を作ってくれた。
くれたのだが、おかずの品数・量がこれまでより
明らかに減っていた。
弟たちは私より感情がストレート。
思ったことは脊髄反射のように
口に出してしまう年齢である。
次男「えー、たったこれだけぇ?」
長男「絶対に足りないよぉ。。。」
母「まあ、そう言わずに食べてごらん」
嫁「。。。」
母がそういうのを不思議な気持ちで聞いていた。
「そう言わずに食べてごらん」
絶対的に少なく見えるけど
でも食べたら実は満腹になったりするのだろうか?
しかし、食べてみてもお腹はやっぱり満たされない。
案の定弟たちも不満たらたらだ。
長男「お母さん、まだ食べたいよー」
次男「ぼくもー」
すると、母は自分のおかずを弟ふたりに差し出した。
母「じゃあ、これをお食べ」
長男「えっ?いいの?」
母「うん、お母さん、よそで少し食べてきたから大丈夫」
次男「ええーっ、いいなあー」
長男「何食べたのー?」
母「ふふふふふ」
嫁「。。。」
このやり取りはしばらく続くことになる。
母の言い訳が
「よそで少し食べてきた」の他に
「今日は食欲ないんだ」
「後でちょっと食べるから今は大丈夫」
のようにパターンが増えて、その理由がループするだけ。
母は、弟たちが足りない、というと自分のおかずを分け与えた。
弟たちもしばらくすると
お腹がすいても、おかずが物足りなくても
母におかずをせびる事はなくなった。
嫁も敢えて弟たちに言う事はしなかったが
程なく弟たちが実情を悟り、そういう事はしなくなった。
嫁が「私たちは貧乏だった」の1部は
このようなシーンだった。
父も、母も。。。
新しい家に移り住んでから
父の帰りは極端に遅くなった。
それまでは、日が暮れる頃には帰っていたのが
深夜になって帰る事が珍しくなくなった。
おかげで、父との会話はめっきり減った。
父がたまの休みの日も、布団で半日寝ていた。
父がみるみる内に病的に痩せていくのを見て
とても遊ぼうなんて声をかけられなかった。
弟たちも最初は休みに父の周りで遊ぼう遊ぼう騒いでいたが
母が「お父さん、疲れているから休みの日くらい寝せてあげて。。。」
と何回もお願いすると、弟も父に群がるのを辞めるようになった。
前の家では、一緒ににわとりの世話したり
犬の散歩したり、農作業したり、ジュウシマツと戯れたり
いきなりホームセンターで木材とかかってきてDIYしたりと
休日は何かと父と関わる事が多かった。
しかし、新しい家に来てからは
物理的に父との距離は近くなったかもしれないが
精神的に父とは繋がらなくなったような気がした。
休みの日に寝ているというのもあったが
仕事の日も日に日に元気がなくなり
会話もどんどん減っていった。
ただ、父が一生懸命仕事をしているのは伝わった。
そして、それは会社に与えた損害を取り返すために
必死に働いているのだと思った。
そう思うと、深いことは何も聞けなかった。。。
前の家では家にいた母も、仕事を始めた。
私たちが学校に行くより前に家を出て
帰りは19時近くである。
そこから、ご飯を作り、掃除洗濯と言った家事をする。
母も日に日にやつれていった。
でも、何も言えなかった。
こうして、新しい家に来てから
何だか生活は貧しくなったし
父も母も変わってしまった。
でも、しいて言えば父の仕事の失敗が原因かもしれないが
父も悪気があってやったわけでは無い。
なぜ、会社に負わせた損害を
父と母が必死になって返していかないといけないのだろう。。。
そんな疑問ばかりが頭の一部分に居座ったまま。
嫁は高校まで進学していくことになる。
父の告白(2)
嫁が高校3年になるころ。
漠然と学生生活も今年まで。
来年から就職かあ、とぼんやり考えていた時期に
父が倒れて入院した。
すい臓がんの末期。
リンパや複数臓器への転移が認められ
手の施しようもない進行状況。
余命3ヶ月を宣告された。
父も、入退院を繰り返しながら
日に日に状態が悪くなっていくのが見て取れた。
そんな父が入院しているある日。
父のお見舞いに行ったら
父がベッドに座って嫁を待っていた。
嫁「お父さん、寝てたら?キツイんじゃないの?」
父「いや、今日は気分が良いんだ」
嫁「。。。そう。。。」
父「気分が良いついでに、お前に話をしたい事があって」
嫁「えっ?」
すり減ったまな板のような薄い胸をしゃんと伸ばし
くぼんだ眼窩だが、眼の力はあふれんばかりに伝わってきた。
今風に言えば「フラグが立っている」状態な訳だが
それを覚悟して、嫁も優しく聞いた。
嫁「なーに?お父さん」
父「お前に、ウソをついていたことを詫びないといけない」
嫁「前の家の事?」
父「。。。やっぱりわかっていたのか」
父は同様する事も無く嫁に聞いた。
父もある程度わかっていたのかもしれない。
嫁「だって、会社で仕事失敗して」
嫁「その損害を会社に返さないといけないなんて」
嫁「あんまり聞いたことないよ」
父「。。。そうか」
父は嫁の話を聞くと
窓の外を見やった。
春の穏やかな晴れた空が窓から覗く。
父「家を手放さないといけなくなったのは」
父「お父さんが仕事を失敗したからじゃやないんだ」
嫁「なんで、手放さないといけなくなったの?」
父「お父さんの。。。友達の。。。」
嫁「。。。友達の?」
ちょっと間があった後
父は空を見ていた目を、コチラに向けて
話し始めた。
父「連帯保証人になったからなんだ」
嫁「連帯保証人って、借金の?」
父「。。。すまない」
こんなドラマみたいな話が
まさか自分の身に降りかかって来るなんて。。。
その後の父の話を要約するとこうだ。
父の友達は会社の同僚で、相当頭の切れる人だった。
しかし、身寄りがなく父母は既に他界
親戚もおらず天涯孤独の身だった。
そんな父の友達が、天賦の才を活かし
独立して事業を始めた。
その時の運転資金を、自身の貯えだけは
うまく回せないと判断し借金をすることにした。
その時の保証人として、父が立ったという。
父「俺が甘かった、そいつは確かに天涯孤独の身だった」
父「しかし、本当に頭が良かったんだ、会社でも常に成績はTOPクラス」
父「その友達も『お前も一緒に来い!俺と一緒にやろう!』って誘ってくれたけど」
父「俺には嫁と三人の子供いたし、なによりその時の生活に満足していたから」
父「株式上場したら、役員にしてくれって冗談言いながら断ったんだ」
父「ただ、お前がやるんだからきっとい事業はうまく行くだろう、そう思い」
父「連帯保証人に立ったんだけど。。。」
嫁「。。。事業は。。。うまくいかなかった?」
父「そう、そしてそれだけじゃなく」
父「俺の友達は、事業がうまく回らないのを苦に、自殺した」
嫁「」
父「こうして、借金が利息込みでまるまる俺の所に回って来たんだ」
そんな話だったとは。。。
しかし、なぜ父は本当の事を話さなかったのか?
罪を憎んで人を憎まず
嫁「お父さん、なんで本当の事を話さなかったの?」
父「うん、お前らにウソをついたのは本当に申しわなく思っている」
嫁「。。。」
父「でも、もし、本当の事を話したら、お前はたぶん」
父「自殺した人の事を恨んだんじゃないか?」
嫁「。。。この年になって聞かされたらわからないけど」
嫁「その当時聞いたらそうかもしれないね」
父「そうするとさ、お前は一生『恨み』を心に抱えて生きていくことになる」
父「俺はそれを恐れた」
父「お前も長男も次男も、本当に立派に育った」
父「親バカかもしれないが、どこに出しても恥ずかしくないと俺は思っている」
父「でもそれは『恨み』を抱えずに今日まで生きてくれたからだと思うんだ」
父「俺やお母さんにすごく協力してこれまでずっと生きてきてくれたよな」
嫁「。。。」
父「ウソをついて申し訳なかったけど、俺がついたウソは間違ってなかったと思う」
父「『罪を憎んで人を憎まず』という言葉があるんだが」
父「そんな人にお前たちにはなってほしかったんだけど」
父「もう今更説明しなくても、お前たちは立派な人間になったな」
父「父親らしいことが出来なくて申し訳なかった、こんな俺を許してほしい」
嫁「大丈夫、私たち、お父さんもお母さんも恨んでないし」
嫁「この話を聞いたからって、お父さんの友達を恨む事も無いよ」
そう言うと、父はそれまで堪えていた大粒の涙をボロボロ流した。
今まで、新しい家に来てから借金を返している間
父も母も、私たちの前で泣いたことは一回も無かった。
本当は泣きたい瞬間は沢山あったはずだ。
でも嫁たちの前では1回も泣くことは無かった。
その2週間後に、父はこの世を去った。
桜のきれいな季節に。
俺の新しい家の話、ならぬ
嫁の昔の家の話、今日はこれまで。
次回予告
いったい何の物語なのか
分からなくなってきたが
これは「俺の新しい家の話」だ。
これからも家の話をやっていくぞ。
さて、嫁の回想まとめをやって
ここから、新しい家の話が加速していく。。。のか?
お前ら、家は「建てたい」と思ったときに建てておくんだな!
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